こないだ大学生の女子たちとお茶をしていたら何故かプログレの話題になり、「何かオススメのアルバムとかないんですか?」的な話になったんですね。「じゃあ考えてみるよ」というわけで考えてみたのが今回のリストです。いまの大学生たちってだいたい1990年前後に生まれているので、「V系がブームから文化になったころに子供時代を過ごしている」、「ある程度ジャムバンド的なものやエモ的なものに耐性がある」、「アニソンなども聴くのでメタルっぽいメロディアスさを受け入れる」、「でもやっぱりかわいいものが好き」みたいな、そんなことを念頭に考えました。そしてもちろんプログレ、つまり「1960年代終わりごろから起こった、他とは違う新しい音楽を求めたムーブメント」みたいなざっくりしたジャンルが、かなり音としてはバラエティに富んでいるということも示せれば良いなと思っています。
ざっくり選んで、絞りに絞って20枚のアルバムになりました。上記のようなことを念頭に置いたため、いわゆる定番のアルバムはほとんど入ってないです。オススメ順とかやり出すといつまでたってもリスト作れないんで、発表年ごとに並べます。同じ発表年のやつは、バンド名のアルファベット順に並べています(と、こういう説明がプログレ好きっぽい)。
では。
Amon Düül: Psychedelic Underground
1969年に発表された、ドイツのバンドAmon Düülのファーストアルバム。いわゆるプログレで想像される「テクニック志向」とか「大作主義」とか「荘厳さ」とかそういうのはないのだけれど、この人たちはコミューンを作ってそのコミュニティでジャムセッションを作って音楽をやってた人たちで、「踊れる曲」とか「愛の歌」とかじゃない「共同体の活動としての音楽」みたいな、音楽の新しい側面を出そうとしたところが、あえて言えばプログレッシヴなんじゃなかろうかと。
もちろん、西洋音楽が現代音楽の文脈で「発見」するアフリカやアジアの「土着の音楽」なんかは、そもそも「共同体の活動としての音楽」だったりはするのだけど。
音としては良質のジャムバンドと言っても良いかなという感じで、どの音源を聴くかにもよるだろうけど(という説明もプログレっぽい)、古さを感じさせないマスタリングが好きだなあと思ってます。ま、ひとことで言うとサイケなんだけど。たぶん当時は本人たちもサイケのつもりでやってて、遡ってプログレ扱いされるようになったんじゃないかと思います。詳しくは知らないけど。
で、このAmon Düülのメンバーのうち、「もっと音楽的なことやりたい」と思った人たちが分裂してAmon Düül IIを結成します。こうやって分裂したり再結成したりするのも、プログレの面白いところ。ちなみにAmon Düül IIではYetiあたりが僕は好きです。
King Crimson: Islands
プログレ四天王(なんてのが存在するのがまたプログレっぽい)のひとつ、というより僕にとっては「もっともプログレッシヴなバンド」であるところのKing Crimson。King Crimsonのアルバムをオススメするときは、デビューアルバムのIn The Court Of The Crimson King (1969年)、即興演奏の緊張感がハンパないLarks' Tongues In Aspic、メタリックなリフがちょうカッコいいRedなどを挙げるのがわりとよくあるパターンなんだけど、ここはあえて1971年発表のIslandsで。
全体的に静かな、美しいアルバムで、特に最後のIslandsは島々の自然を美しい歌詞とメロディで紡ぐ名曲です。キース・ティペットのピアノも素晴らしい。
プログレは、こういう「クラシックの香りがする」ものも多くて、事実Islandsでは室内楽で使うような楽器も多数使われています(もろ室内楽の曲も収録)。そして歌詞も、専属の詩人であるピート・シンフィールドによる、「愛だの恋だのではない詩」が素晴らしいです。
このアルバムを出したあと、ギターのロバート・フィリップ以外のメンバーは全員King Crimsonを去ります。そしてメンバーを一新し、さきほど書いたLarks' Tongues In Aspicが録音されます。
ちなみにKing Crimsonにとってこのアルバムは4枚目のアルバムですが、ここまで、全アルバムでメンバーチェンジがあります。そしてこのアルバム以降も、最初の解散であるRedまで、1枚も同じメンバーで作られたアルバムはありません。このあたりがプログレの楽しいところです。
Cluster: Cluster II
今回リストを作ってて思ったのだけど、僕はけっこうドイツのバンドが好きみたい。このアルバムは、1972年に発表された、ドイツの電子音楽バンドClusterの2枚目のアルバムです(Clusterの前身であるKluster時代から数えると5枚目)。
電子音楽というとピコピコした音を想像するかもしれないのだけど、このアルバムはそういう音楽が現れる前の音楽で、メロディーがないようなボワーンとした電子音が、塊でぶよぶよと鳴り響くというもの。音に包まれながら聴くのが良いです。Clusterのファースト(1971年発表)も同系統の音だけれど、世間の評価はこのIIがやけに高い。
このアルバムのあと、Clusterはピコピコした音楽をやったりしながら、その後ブライアン・イーノとコラボしてアンビエント・ミュージックを生み出すお手伝いをしたりします。
Popol Vuh: Hosianna Mantra
またまたドイツ。1972年に発表されたPopol Vuhの3枚目のアルバム。Popol Vuhはこのアルバムまでは、ドローンのような電子音とパーカッションというような、ある意味さっきのClusterみたいな曲づくりをしていたのだけど、このアルバムからはメロディらしきものが出てくる。とにかく静謐で美しい音楽。ピアノとギターと女性ヴォーカルの生み出す空気感に酔うといいと思います。
ヴォーカルを担当しているDjong Yunは、韓国の(と言っていいのかな、日本統治時代の朝鮮生まれの)作曲家、尹伊桑の娘だったりする。
ちなみにPopol Vuhというバンド名は、マヤの創世神話に出てくる神様の名前から取られている。このへんの中二っぽさも、プログレの大事なところだったりするのです。
Carmen: Fandangos In Space
このバンドはプログレ好きでもあまり聴いたことがない人が多いかもしれない。フラメンコとロックを融合したユニークなサウンドが特徴のアメリカのバンドで、このアルバムは1973年発表のファーストアルバム。アルバム2枚のみで解散してしまうのだけど、クラシックを取り入れたりジャズと融合したり、いろんな模索をしたプログレの中で、フラメンコに手を伸ばしたという珍しい例。けっこうキャッチーで楽しいです。
Rick Wakeman: The Myths and Legends of King Arthur and the Knights of the Round Table
プログレの大事な要素のひとつに「大仰さ」ってのがあります。身の回りの恋を歌うんじゃなくて、アーサー王と円卓の騎士たちの物語を歌ったりするわけです。しかもオーケストラと共演したりしながら。アルバム1枚全部を使ったコンセプトアルバムというところも、プログレらしいところ。
てか、だいたい、タイトルが長い。
そんなこのアルバムは、1975年に発表された、リック・ウェイクマンがYesを脱退したあとに最初に出したソロ・アルバムです(ソロとしては3枚目)。
MALICE MIZERがあんな格好してくるくる回りながらライブをやる何十年も前に、マントを羽織ってものすごい台数のキーボードと格闘しながら大仰な「西洋の中世」ぽい音楽をやってた人がいたことを知ってほしいです。
Mauro Pagani: Mauro Pagani
イタリアの、世界的に成功したプログレバンドPremiata Forneria Marconiのヴァイオリニストだったマウロ・パガーニが、同バンドを脱退して1978年に出したファーストソロアルバム。地中海テイストの入った、民族音楽とロックとの融合、みたいな音が聴けます。ガチガチの変拍子リフがカッコいい。あと、女子大生に勧めるのに大事かなと思ったのは、マウロ・パガーニがイケメンなところ。とは思いつつ、「べつにイケメンじゃないと思いますけど」とか言われたらどうしよう……。
ソロアルバムなので、同じくイタリアのプログレバンドAreaのヴォーカル、メトリオ・ストラトスがゲスト参加してたりするのも楽しいところ。
Banco del Mutuo Soccorso: Canto di primavera
イタリアからもうひとつ。Banco del Mutuo Soccorsoのアルバムから、あえてこれ。1979年の9枚目のアルバム。年代的にちょうど世間がプログレ離れを進めている時代で、各プログレバンドは、生き残りを賭けて音楽性を変化させたり、あえての解散を選んだりしていた。
で、このアルバムはそれまでのアルバムよりも軽快でポップさを増しているものの、やはり心の奥底に流れるプログレ魂が、ただのポップソングを作らせはしなかった、というような作品。
ヴォーカルのジャコモおじさんの、クラシック感というよりはむしろオペラ感満載の、伸びやかな歌声を楽しんでください。
Heldon: Stand By
フランスのバンドHeldonが1979年に発表した7枚目のアルバム。ちなみにエルドンって読みます。6枚目のInterfaceもとても良いアルバムなんだけど、ジャケが気持ち悪いので女子大生にはオススメできないのが残念。
音楽的には、Fripp & Enoにモロ影響を受けた、ビヨンビョオンと分厚いギターが唸って反復する気持良さを味わう感じ。トランス感、という感じですかね。
U.K.: Danger Money
これまた1979年のアルバム。King Crimsonのベース&ヴォーカルのジョン・ウェットン、同じくKing Crimsonのドラムのビル・ブラッフォード(ブルフォードと読むのが正しいらしいです)、フランク・ザッパのバンドなどで活躍していたヴァイオリニストのエディ・ジョブソン、そして流浪のギタリスト、アラン・ホールズワースの4人で結成された「スーパー・バンド」がU.K.なのだけど、1枚目でビル・ブラッフォードとアラン・ホールズワースが抜け、ザッパチームからドラマーのテリー・ボジオが加入してトリオになって発表された2枚目のアルバムがこれ。
無理矢理感が楽しい変拍子と、妙にキャッチーなフレーズが、のちのAsiaを思わせる部分もあり。
歌いまくるヴァイオリンが、恐らく一番の聴きどころなのではないかなあと思います。あとはボジオの多すぎるタムとか。
で、このアルバムを出したあと、ライブアルバムを出してこのバンドは解散してしまうのでした。
Univers Zéro: Ceux du Dehors
さて、ついに時代は80年代、プログレ不遇の時代になってしまいました。が、そんな不遇の時代の中でも、いろんな活動があったんですね。
このUnivers Zéroはチェンバー・ロックと言われるジャンルの音楽をやるバンドで、つまるところ、室内楽とロックの融合、みたいなやつです。暗黒で緊張感だらけの音楽がカッコいい。ストラヴィンスキーとか好きならきっと好き。
当時、Henry Cowというバンドが「ロックとは反体制である」という運動をしてまして、RIO (Rock In Opposition)というんですが、コマーシャリズムに堕したロックではなく、本来のロックに戻ろうぜと、そういう運動に参加してたんですね、Univers Zéroは。
このアルバムは、1981年の、Univers Zéroの代表作です。ドアタマから、ぐいぐい飛ばします。
ちなみにUnivers Zéroはベルギーのバンド。プログレを聴き始めて最初のうちはイギリスものばっかり聴いたりするわけですが、そのうちだんだん、いろんな国の音楽を聴くようになるのがまた楽しいです。
Moebius: Tonspuren
がらっと雰囲気は変わって、ヘンテコでかわいい音楽が、さっき紹介したClusterの片割れ、Moebiusの一連のソロアルバム。
Clusterとしての活動を一旦休止したあとの1983年に発表されたアルバムなのだけど、ピコピコというより、ポコポコした電子音楽で、聴き流そうにもどうも変なので「ん?」って思っちゃうような、そんな面白い音楽。
X-Legged Sally: Killed By Charity
これまたベルギーのバンド、X-Legged Sallyの1993年のアルバム(セカンド)。だいぶ現代に近付いて来ました。
X-Legged Sallyはプログレというよりアヴァンギャルドのバンドなのかもしれないんだけど、そのバカテクと遊び心が楽しいです。
残念なことに日本のAmazonにはジャケ写がなかった。
Meshuggah: Destroy Erase Improve
こちらはスウェーデンのデス・メタルバンド。プログレ的には、プログレッシヴ・メタルという範疇に入る。
デス声なのでダメな人はダメかもしれないんだけど、その引っかかるような変拍子は、クセになるほど気持ち良いです。
このアルバムは1995年発表の2枚目のフルアルバム。
Meshuggahというのは、イディッシュ語(ヘブライ語まじりのドイツ語)でcrazyという意味らしいです。中二ぽくていいですね。
IQ: Dark Matter
ポンプ・ロックというジャンルがあります。プログレのサブ・ジャンルというか、80年代に「やっぱりプログレが好き!」みたいな人たちがやってたジャンルの音楽で、プログレのドラマチックさをメインに押し出したような、大仰な音楽が特徴です(ポンプというのは、大仰な、という意味)。
IQは1981年結成の、ポンプ・ロックを代表するイギリスのバンドなのだけど、このアルバムは2004年のアルバムです。シンセの響きがとても気持ち良い。
Paatos: Kallocain
ついに2000年代になました。
スウェーデンのバンドPaatosが2004年に発表したセカンドアルバムがこれ。メランコリックなサウンドです。
メロトロン(1960年代後半に出現した、テープを使ったアナログ・サンプリング・マシーン。プログレでよく使われる)の轟音が楽しいあたりは、同じくスウェーデンのAnekdotenにも通じるところがあるとは思うのだけど、Paatosはもっと繊細な感じでしょうか。女性ヴォーカルの存在がそう思わせるのかもしれないし、打ち込みなんかも利用するあたりがそう思わせるのかもしれない(Anekdotenが使ってなかったかどうかは覚えてない)。
MAGMA: K.A.
コバイア星からやって来てコバイア語で歌うフランスのバンド、MAGMAです。1969結成のバンドで、代表作としてはM.D.K. (Mekanik Destructiw Kommandoh。邦題は『呪われし地球人たちへ』。コバイア星から地球に警告を与えにきた的なアルバム)あたりかと思うのだけど、あえてこの2004年のアルバムを推したい。MAGMAの魅力は、ミニマル的な短いフレーズの繰り返しが次第にとてつもない盛り上がりに発展するところだと思うのだけど、その独特な歌唱法が、このアルバムはよく出ていると思うので。
ちなみにこのアルバムは『コンタルコス三部作』の第2作目。第1作は1974年のKöhntarkösz、3作目は2009年のËmëhntëhtt-Rê。あしかけ35年がかりで完成するってのも、非常にプログレっぽい。
Mars Volta: Frances The Mute
現代のプログレはこんな風になってます、というのを最後にふたつ。
アメリカのバンドMars Voltaが2005年に発表したセカンドがこれ。エモとラテンとプログレがごった煮になった音楽。メンバーがヒスパニック系なこともあり、スペイン語の曲もあったりする。音よりもリズム感に緊張感を感じると、個人的には思っています。
Haken: Aquarius
最後は2010年のHakenのデビューアルバム。イギリスのバンドです。
ざっくりと言うとプログレッシヴ・メタルなのだけど、単なるメタルの枠には収まらない、たとえばHöyry-Kone (フィンランドのチェンバーロックバンド)やらSamla Mammas Manna (こちらはスウェーデンのバンド)にも通じる遊び心が感じられる。
まとめ
以上、書いてる途中で「年末に何やってんだオレ」という気持ちになってきたので駆け足になりましたが、プログレの面白さが少しでも伝わるといいなあと思います。
ビデオいろいろ
それぞれのアルバムのビデオなどを適当に貼っておきます。
Amon Düül: Psychedelic Underground (全曲)
King Crimson: Islands: Islands
Cluster: Cluster 71 (全曲。上で紹介したアルバムの前のアルバム)
Popol Vuh: Hosianna Mantra
Carmen: Fandangos In Space: Bulerias
Rick Wakeman: The Myths and Legends of King Arthur and the Knights of the Round Table
Mauro Pagani: Mauro Pagani: Europa Minor
Banco del Mutuo Soccorso: Canto di primavera
Heldon: Stand By
U.K.: Danger Money: Caesar's Palace Blues
Univers Zéro: Ceux du Dehors: Dense
Moebius: Tonspuren: Hasenheide
X-Legged Sally: Killed By Charity: Eddies
Meshuggah: Destroy Erase Improve: Future Breed Machine
IQ: Dark Matter: Sacred Sound Part 1
Paatos: Kallocain: Gasoline
MAGMA: K.A.: K.A. I
Mars Volta: Frances The Mute: Cygnus
Haken: Aquarius (全曲)