萩萩日記

世界に5人くらい存在するかもしれない僕のファンとドッペルゲンガーに送る日記

「IT業界カタカナ地獄」(ボツ原稿)

某所用に書いた原稿がボツになって宙に浮いてしまったので(泣)ここに載せてみる。

■「ストアド」は「スト・アド」なのか?

 それはもとはといえばデータベース用語であるところの「ストアドプロシージャ」の「ストアド」を「スト・アド」だと思い込んでしまい、「なんでデータベース用語なのに広告屋ストライキなんかしてるんだ?」とアタマの中が「?」の嵐になったせいなのである。落ち付いてちゃんと調べればそれは「ストア・ド」つまりstoredで、「ストアドプロシージャ」とは「DB側に格納されたSQLの手続き」のことだとわかったのに。でも僕らが勤めるIT業界というやつはカタカナ用語が多くて、というよりカタカナ用語が多すぎて、なかなかその言葉の元の意味まで調べる手間を割けなかったりする。問題ないときはそれでも良いのだけれど、ひとつ間違うと、何だかとてつもなくヘンな勘違いをしてたりするわけなのだ。たとえば「レイテンシ」を「いつもテストで0点を取る人」=「0点氏」だと思ってみたり、「デリミタ」を「近所の家族経営の惣菜屋」=「デリシャス・三田」だと思ってみたり。まあ「たとえば」という話なので例が無理矢理なのは勘弁、勘弁。ちなみに「レイテンシ(latency)」はlatent(隠れている)の名詞形で「隠れていること」というのが本来の意味。そこから「潜伏期間」という意味も生じて、IT用語での「処理の最初の遅れ」の意味も出たみたい。lateの名詞形かと思っていたのだけど調べてみると違ったわけ。「デリミタ(delimiter)」は「区切り文字」という意味。こちらは特に面白い話はない。

 そんなわけで、IT業界に巣喰うカタカナ用語の意味を、忙しいみなさんに代わって調べてみたので参考にしてみてください。

■まずは身の回りから攻めてみる

 さて、ITといえば「コンピュータ」。ではそもそも「コンピュータ」とは?「計算機」なんて訳し方もあるようだけど、computeとは、ラテン語の「総計する」という言葉から来ている模様。同じ「計算する」でもcalculateは「見積る」とか「推定する」の意味もあるから、同じようでもちょいと違いますな。類語辞典によると、calculateは「複雑な計算をする」、computeは「与えられた数字や式を用いて正確な計算の結果を出す」とのことで、「コンピュータ、ソフトなければ、ただの箱」という言葉は、語義的にも正しそう。

 そのコンピュータにつながってるのは「モニタ」、「マウス」、「キーボード」というところでしょうか。「モニタ(monitor)」には「絶えず監視する」という意味があって、バグが出ないか絶えずモニタとにらめっこしてる自分の日常に思いを馳せると、なかなか意味深。モニタのことを「スクリーン(screen)」と言ったりもするけれど、こちらの原義は「さえぎるもの」。何かを映し出すものではないわけですね。きっと、日の光をさえぎるためのスクリーンに影絵を写したりしていたのが、映画を映す布をスクリーンと呼ぶようになって、いまのモニタ的な使い方もできたのじゃあなかろうかと。

 ちなみに今回、ざっと調べてわかる範囲でしか書かないのでそのつもりで。つまり想像も混じってたりして、あくまでも、忙しいあなたに代わってちょっとしたネタを提供する程度のつもりなので。

 「マウス(mouse)」はご存じの通り、形がネズミに似てるから。しかし安易なネーミングだ。しかも似てるというほど、似てるか?ネズミに。やっぱりマウスを開発したパロ・アルト研究所も、研究所だけにモルモットとか見る機会が多かったのでしょうか。分野違うようにも思うけど、そうでも考えないと無理矢理な気がする。

 「キーボード(keyboard)」についてはよく考えると変な話で、キーボードにたくさんついているのは鍵(key)じゃなくてボタン(button)なはず。なのに、なぜ、キーボードと呼ぶのでしょうか。これまた推測なのだけど、keyには「音の調子」とかいう意味もあって、そこから、音を出すボタンをたくさん並べたものをキーボードと呼ぶようになり、その、ピアノやらオルガンやらのキーボードと、いま話題にしているボタンがたくさんついた入力装置が似てたから、こちらもキーボードと呼ぶようになったのではなかろうかと。ちなみにボタンについて調べてたところ「Button up!」で「黙れ!」という意味があるらしい。日本語だと「口にチャック!」というところでしょうか。IT用語ではないけれど、この「チャック」は「巾着袋」から来た言葉なので外来語だと勘違いしないように。同じ系でも「スイッチ(switch)」は「しなやかな小枝やムチ」という意味らしい。「パチンッ!」ってところですかな。

■バーチャルでデジタル

 「バーチャル(virtual)」という言葉は、どうも誤解されている言葉な気がする。なんとなく、「コンピュータの」的な意味で使われることが多いけれど、意味としては「事実上の」とか「実際上の」とかいうところ。「本質的に同じこと」というような意味で使うのが本来的な使い方だろう。だから「現実の世界とバーチャルの世界の区別がつかなくなってる」なんて言ってるおっさんは、もうちょっと言葉の意味をわかってしゃべった方が良い気がする。だって、「現実の世界」と、「現実と本質的に同じ世界」は、区別がつかなくても仕方がないわけで。

 バーチャルと並んで「デジタル(digital)」も「コンピュータの」的な使われ方をする言葉だ。「いやー、私は根っからの古い人間でして、デジタルにはからっきしで」的な感じで。が、digitalというのは「手足の指で数えられる」という意味。digitには手足の指という意味があり、そこから数字の桁という意味も派生している。だから「デジタルにはからっきし」な人には、「え?数が数えられないんですか?」とか返してみると良いかもしれない。イヤミすぎるけれど。

 コンピュータ処理の最小単位であるところのビット(bit)はbinary digitの略で、「2進数でのひと桁」というような意味。もちろん、もともとの「bit」という単語が持つ「小片」や「わずか」という意味も、重ね合わせられているわけだけど。通常8ビットを表わず「バイト(byte)」は恐らく、「ひとかじり」や「少量」を意味する「bite」から来てるんでしょう。ちなみにアップルのロゴがかじってあるのも、このバイト関連。もひとつちなみに時給で働く方のバイトはドイツ語の労働を意味する「アルバイト(arbeit)」の短縮形。ずっとバイトだと給料もバイト=少量だよと、ちょっとうまいことも言ってみました。

 かじるといえば、4ビットを表わす「ニブル(nibble)」も「少しづつかじる」というような意味。なんか、かじってばっかりだね。

■その社名はどんな意味?

 アップルの話が出たところで、いくつかのIT企業の意味を。「アドビ(adobe)」は「日干しレンガ」。普通のレンガじゃなくて「日干し」。詳しくは不明。そのアドビが買った「マクロメディア(macromedia)」、「macro」は大きいという意味。でも、IT業界的に一番大きい会社は「マイクロソフト(microsoft)」だったりするのだけど、「小さくて(micro)」しかも「柔らかい(soft)」だなんて、夜は全然使いものになりませんね、なんて話は下ネタなのでカットされる可能性高し。

 マイクロソフトにつっかかることで有名な企業と言えば「オラクル(oracle)」。その意味はと言えば「神託」。なんだか急にありがたい話になってきた。「work the oracle」で「目的を達する」という意味もあるようで、このへんも意識したのかもしれない。「You can work the oracle working with your Oracle 10g」的な。ありがたいといえば「ロータス(lotus)」は蓮の花という意味。でも蓮の花でお釈迦様を連想して「ありがたいといえば」とつなげるのは、ちと苦しいかもしれない。

 日本語で言うと「国際事務機器」、それが「International Business Machine」であるところのIBMである。なんか、日本語にすると弱そうだ。雑居ビルに入ってる中小企業な感じ。あくまでも、イメージだけど。

 トリビアで取り上げられたので有名になってしまったけれど、日本の老舗コンピュータ系出版社であるところの「アスキー(ASCII)」は、「あなたの 好きな コンピューター いっしょに いい事しませんか?」の略だそうである。後づけだろうが見事である。ちなみに本来のIT用語で言うところのASCIIはAmerican Standard Code for Information Interchangeの略。別に面白くもなんともない。

 個人的にちょっと面白いなと思うのは往年の名機「アミーガ(amiga)」。アミーゴ(amigo)といえばスペイン語で「友達」のことだけど、amigaはその女性形なんですね。だから、女友達。何を考えてコンピュータの名称にそんな名前を付けたのかは知らないけれど、なんかセンス良いなあと思います。逆にちょっとこれはと思うのは「エクセル(excel)」。「優れる」、「勝る」、「秀でている」という意味で、ちょっと直球すぎやしませんかと。まあ、「言葉」を入力するワープロソフトに「ワード(word)」と付けるよりは、ちょっとマシかもしれません。

■知らないと恥をかく?

 ところでマクロメディアのmediaだけど、これ実は複数形で単数形は「medium」。これは別に知らなくても特に困らないかもしれないけれど、「データ(data)」や「インフォメーション(information)」はどうでしょう?dataはdatumの複数形なので、データファイル用のディレクトリ名に「datas」なんて名前付けてると、ちょっと恥ずかしいかもしれない。informationは何かの複数形なわけではなく、いわゆる不可算名詞。だからこれも「informations」なんてのはありえないわけ。ちなみに「正誤表」の意味の「エラッタ(errata)」は「erratum」の複数形。こちらは知らないと恥というより、知ってたらちょっと頭良さげな感じかな。

 恥をかくというより、いまどきな言い方ではないだろうと思われるのは、「マスタ(master)」と「スレーブ(slave)」。だって「主人」と「奴隷」だからね。南北戦争から一体何年経ったんだっていう話ですよ。「サーバ(server)」=「サービスする側」と「クライアント(client)」=「依頼人」の方が、いまどきな関係でしょう。

 最近は見かけなくなったけれど「ダム端末」や「ダムハブ」という言葉を聞いたことはあるでしょう。あの「ダム(dumb)」は、水がいっぱい溜まってる「ダム(dam)」とは違って、「まぬけな」とかいう意味で使われている。要するに「機能が足りない」=「ちょっと足りない」=「まぬけ」という連想かも。さらっと書いた「ハブ(hub)」、「ハブ(have)」だと思っていた人はいないかな?ネットワークケーブルが集ってる場所=ネットワークケーブルをたくさん持ってる(have)機械、みたいな誤解で。hubというのは「車輪の軸のはまる場所」のこと。勘違いしないように。

 「ケーブル(cable)」の話が出たところでみなさんに質問。ケーブルと「コード(cord)」はどっちが太いと思います?実はひも関連、太い順に、「cable」、「rope」、「cord」、「string」、「thread」らしいです。ケーブルとコードについてはあまり考えたことなかったけれど、でも、ケーブルの方がロープより太いというのは、ちょっと意外でした。みなさんはどうでしょう。海底ケーブル、とか言われると、太い気はするけれど・・・。逆に一番細いのは「スレッド(thread)」で、これは糸というより繊維の方がイメージに近い模様。そう言われると、プログラムを同時実行するスレッドのイメージとも、少しは近くなるような気がする。

 ひょっとしたらコードはcordじゃなくてcodeだと思っていた人もいるかもしれないので補足すると、ひもはcord、プログラムの方は「コード(code)」ですから。こちらには、「体系だった符号や記号、暗号」、「規約や規則」という意味がある。だからプログラムソースの意味で使われることがあるわけ。で、その「プログラム(program)」はというと、「計画、予定表」というのが本来の意味。運動会のプログラム、のプログラムですね。なんでもギリシャ語で「公に書かれたもの」が語源らしい。

 「知らないと恥を書く?」という小見出しを付けたわりに話がそれているのでちょっと戻してみるのだけれど、みなさんは、「Altキー」を何と読んでるでしょうか?「アルトキー」じゃないよね?ね?ね?読むなら「オルトキー」、帰国子女なら「オールトキィ」ね。「代理」や「交代」を意味する「オルタネイト(alternate)」の略でAltなわけなので。ちなみに「ラララー♪」と歌うソプラノ、アルトのアルトは「alto」と書きます。

■カタカナ地獄はITだけじゃない

 高校生のころ運動部だった友達と「ベーマガ」について話しあっていたところ、どうも話が噛み合わない。あとでわかったのは、向こうは「ベースボールマガジン」のつもりで、僕は「ベーシックマガジン」のつもりだったわけ。お互い、「そんな本読んでるんだ!」と親近感を持って損をしたという話なんだけど、それはそれとして、業界が違うと、意味が違う言葉ってありますね。有名どころでは「デフォルト(default)」。金融業界だと、「債務不履行」を意味することになる。そんな意味があることを知らずにデフォルト、デフォルト言ってると、先方さんはドキドキしてるかもしれない。でも、この意味の違いも、言葉の元の意味を知っていれば十分納得できること。もともとdefaultとは「怠慢」という意味。債務があるのに怠慢してると債務不履行という意味になって、ユーザーが怠慢しても良いように値を設定しておくことにすると既定値という意味になるわけですね。

 というわけで、かけ足でいろんなカタカナ言葉を巡ってみたわけだけれど、如何だったでしょうか。カタカナ言葉も、そのカタカナ言葉の持つ本来の意味を知ってから使うと、何やらかわいく思えるようになるかもしれませんよ。