萩萩日記

世界に5人くらい存在するかもしれない僕のファンとドッペルゲンガーに送る日記

『理系のための企業戦略論』

自分が理系か文系かというと現在の職業的にはたぶん理系なのだろうが大学入学のときは文系で、でも大学卒業してないからよくわかんない。「理系のための」と言われると「理系じゃない僕は読んじゃダメ?」とか思ってしまったりするがそれはそれでちょっと「理系っぽい」発想のように思えるので最終的には読んで良いのだと判断。

で、多少こういう「社長本」は読むものの、まだそれほど得意分野なわけではないので、フォトリーディングとまではいかないけれど、かなりの斜め読み。でも各章にまとめもついているし、「理系のため」なので要所要所に理系萌えのするグラフや表が入っているので、とりあえずこの手のことをざっとつかんでおきたいだけの人でも、買って損はなさそうである。

企業には戦略がとても大事だということを「納得できない。そもそも技術力なくして開発はありえないわけであり新しいものを生み出さない限り企業の使命を果たすことはできないのだから技術力すなわち研究が非常に大事だと考える」みたいなことを言ってくる「理系」に対し(マネがいまいちうまくいかん)、「いやいや、だからね、無闇に技術力が高いだけじゃダメで、戦略ってのが大事なんだぞー」と、あるときは論文チックな感じで、あるときは理論的に、またあるときは「理系」が好きな証拠をつきつけながら説明していく。特に新規開発に関しては、あのクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)』を引きながら、丁寧に解説してある。

冒頭の「企業戦略には敵が必要」も、言われてみれば当然のことではあるが、じゃあ具体的に「で、敵は誰?」と聞かれると答えられない人も多いのでは?「企業戦略には王道がない」のところは、何故王道がないのかを論理的に解説してあり、冒頭で「理系」を引き込む工夫がちょっと楽しかった。

イノベーションプロセスのモデルとして挙げられていた「トリクルアップ」、つまり技術が改善されることで臨界値を越えて新しい用途が生まれるという用語、知らなかったのでお勉強になった。アメリカ的な「スピン・オフ」が何故日本に向かないかという話も。

最終章の「研究開発戦略」というのが、きっとこの本の白眉なんでしょう。戦略には敵が必要ということは、ある程度ドロドロ感に対する許容が必要なわけで、一般的にイメージされる「研究者」の人たちにとってあまり得意分野ではなさそう(ほんとはどうか知らんけど)。「基礎研究は役に立たない」のかということや、基礎研究を市場投入まで持っていく途中で資金投入が難しくなる「死の谷」現状のこと、「開発チームの独創性に寄与する因子」の分析など、具体性を持って語られる。最終章の最終節、「研究組織内部へ情報が流れる際に鍵となる役割を果たす人物」であるゲートキーパーの話は、とても参考になった。僕自身が、広い意味での橋渡しができる人間になりたいと思ってるので。つまり「グル(教祖)よりグルー(接着剤)」ってこと。

あと、なんなら、「技術力が高すぎるのは良くない」という結論も自分的にはアリ。どうしても技術力があると、「うちらがやってることの方が正しいのに」ということになりがちで。もちろん、技術力ゼロは詐欺だろうけど、結局のところ技術力と戦略力のバランスってことでしょうかね。論語で言うところの「学而不思則罔、思而不学則殆」ってやつですな、きっと。

あと3回ぐらい読もうかなって予定。

理系のための企業戦略論

理系のための企業戦略論

★★★☆☆:普通