10年来の友達であるもやしと僕がお互いに同じ少女マンガを読んで同じ日に感想を書くブログの第2弾です。もやしの感想はこの記事の最後をどうぞ。
ちなみに前回はこれ。そして今回は前回より随分長かったり話が飛んだりします。
さて、今回はタイトルからジェンダーの話っぽいかなと思って選んだ嶋木あこ『僕になった私』。タイトルだけで選んだので、読み始めてみたら「主人公の女の子が入学した男子校の寮で自分が女子だとバレないように過ごそうとするんだけど、なんやかんやあって同じ部屋の男子と付き合うことになる話」ということがわかって、うーんと、AVかな?
と最初は思ったけどこうやって文字で書くとそうでもない気もするね。薄暗いネカフェで読んでたせいで心が汚れてたんかな。『転校生』とか『君の名は。』みたいに「男女の身体が入れ替わってしまう話」もやりようによっちゃAVだもんな。平安時代の『とりかへばや物語』なんかも。知らんけど。
ちなみに僕はマンガについて全然詳しくないので、これ以降は基本的にすべて文に「知らんけど」が付いてると思って読んでください。
で。
さっき「同じ部屋の男子と付き合うことになる」って書いたんだけど、それはこの男子が主人公は女の子だということに早々に気付き、女の子だとバレそうになるのをがんばって防いでくれるから。たとえば上半身裸で集合する健康診断のときとかね。
そうやって自分に心を砕いてくれる人が身近にいるとやはり心魅かれてしまうわけで。
イケメンなら尚更ね。あぁ。
あと、他にはこんなエピソードも。
性的指向が男子な男子が、最初はこの同じ部屋の男子のことが好きなんだけど、なんやかんやあって主人公の女の子のことを好きになったりして。「昔の少女マンガ」より人物相関図のハート付きの矢印の向かう先が増えてて面白いなと。
たぶんジェンダーぽいところはこのくらいで、基本的には「近くにいるけど結ばれないふたり」の物語。なぜならふたりは男子校の寮にいて、自分が女の子と明かせず男として振舞っている主人公と、「本当の男子」である同室の彼との間には、ロミジュリばりの壁があるから。
まあでも、気付いたら同じ部屋にいるわけで、要するにやりたい放題ではあるんですけどね。最後は「結ばれる」し。
そういうエッチなネタで言えば、主人公がサラシを巻き忘れてまわりが「あれ?胸あんの?なんで?」みたいになったとき、同じ部屋の男子がとっさに服の中に手を入れて胸をつかんで胸があることをバレないようにするというシーンがあり、しかも主人公はわりと胸が大きくて、そして主人公の女の子は同じ部屋の男子に胸をつかまれてることに対して「気持ちいい」と言ってて、ちゃんと乳首も描きこまれてて、やっぱり「AVかな?」と思ったりもしたけれど、掲載雑誌がCheese!で、この雑誌は「18歳から25歳を主なターゲットとしている」とのことで、じゃあそういうこともあるのかなと。
さてそうなってくると、まったくマンガに詳しくない僕としては、「はて?『少女』マンガとは?」となるわけですよね。
学生の間くらいは「女の子」と呼んでもいいだろうけど、社会人をつかまえて「女の子」はなかろうと。合コンで「いまから女の子が3人来るから」って合コンに来る年の女の人を「女の子」はどうなのと。そもそも「子」という文字は両親から支えられている姿を表してるというのは嘘だけど、なんだっけ。そうそう。その「主なターゲット」は「少女」とは言えんわなあと。だからこのマンガがすごい!は「オトコ編」と「オンナ編」に分かれてるのかな?でもそういう話ならそもそも「オトコ」と「オンナ」はなんで分かれてんの?とか。これに関しては掲載誌が男性向けか女性向けかで分かれてる説を聞いたんだけど、じゃあなんで雑誌が男性向けか女性向けかで分かれて、というかなんで男性を先に女性をあとに、などなどカフカの『城』ばりの迷宮に入ってしまいそう。
ところで僕は「ジャンルでは音楽聴いてないかなー。なんでも聴くよ。好きな音楽が好き」とか言われると「それって言語化できてないだけでは?」とか思ったりするわけで、そもそも何をもって「良い」とするか、何をもって「好き」と感じるか、それを分類したのが「ジャンル」だと思うのよね。だって顔面白塗りのデスメタルが好きな人と、アイドルソングが好きな人って、「良い」がほとんど交わりそうになくない?
僕はもう20年近く前に『時刻表の音楽』っていうCD(!)を出したことがあって、このときCD Babyというサイトを使ったのね。そのサイトには「自分のCDを説明するときはどのアーティストに似てるかを書こうな!『まったく新しい音楽です!』とか書いてもその曲を聴いてみようと思うほどみんな暇じゃないんだ。これマメな」的なことが書いてあったのね。ジャンルの話ってこれと似てるよねと。
何が言いたいかというと、「少女マンガ」は「感情がどう震えるか」に、「少年マンガ」は「成長がどう達成されるか」に、それぞれ重きを置いたジャンルなのではないかと思うんだよね。
もちろん、感情が震えた結果成長するだろうし、成長することによって感情は震えるだろうし、ま、いいんですよ細かい話は。
僕はミステリが好きなんだけど、ミステリって人が死ぬんです。「日常の謎」って言う死なないミステリもあるけど。で、人が死ぬ話が好きだからって、もちろん人が死ぬこと自体が好きなわけではないんだけど、ミステリで人が死ぬのは「死」というのが一番取返しが付かないことだからだと思ってる。だからこそ、その意味は理解されるべきだし、死に追いやった犯人は糾弾されるべきだと。
僕はミステリの中でも本格ミステリが好きで、本格ミステリはときに「人間が書けてない」「殺人事件を単なる物語の道具として使ってる」なんてことを言われたりする。けど、まあ、物語って、大きく見れば何かを描くために何かを道具として使うもんだよねえ。たとえば『走れメロス』も「友情って大事だよね」で終わったら「まあそうでしょうねえ」なわけだけど、「メロスゎ走った…… セリヌンティウスがまってる……でも……もぅつかれちゃった…」になるから、つまりそういう道具立てがあるからこそ、「友情って大事だよね」が「そんな浅い話じゃねえよ」と心に刻まれるわけで。
だから少女マンガが「近場で付き合ったり離れたりする」のは、知らん人と知らん人が付き合って別れてそれから今度はまた別の全然知らん人と付き合っても「あんた誰?」となって感情が動きにくいからかなあと思います。
ところで気付いたかもしれませんが、ここまで『僕になった私』自体の話をほとんどしてませんね。
ごめんなさい。
この話自体は、わりとずっと迷走してたかなあという感じ。
1巻で描こうとしている感情の揺れがなんだか未消化のままに「方針転換」して2巻では違う感情の揺れが描かれる。
感情の揺れのバリエーションが豊富なことは良いと思うんだけど、それが直線的に行き当たりばったりな感触がしてしまって、感情の揺れを楽しむというより、話の筋がいまどっち方向の進んでるかを追いかけるのにがんばらないといかんかった。ただこれは、僕のマンガの読み方が下手なせいもあるとは思う。あと単行本だともはや字が小さくてつらいのよな。参った参った。
そういうえば『僕になった私』ってめちゃくちゃ日本語じゃないと成立しないタイトルだね。
と思って調べたら全然そうでもなくて……。
英語 | I Became Him |
フランス語 | Je suis devenu lui |
ドイツ語 | Ich wurde zu ihm |
中国語 | 我变成了他 |
韓国語 | 나를 그로 만들다 |
「私は彼になった」と、日本語だと一人称を変えることで表すところを外国語だと代名詞を使うことで処理してる。若干ニュアンス違うけど。
ちなみにこのマンガの英語タイトルはSECRET☆GIRL。
そう来ましたか……。
ジェンダーの興味から読み始めたら、そもそも少女マンガと少年マンガは何が違うのか、僕はなんでミステリが好きなのか、音楽のジャンルにはどういう意味があるのか、日本語といろいろな外国語での人称代名詞のあり方はどうなっているのか、そんないろんなことを考えられた読書体験となったのであった。
ありがとうございました。